最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)121号 判決 1952年4月04日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士君野順三の上告理由第一点及び第二点について
民訴七五九条にいわゆる特別事情とは債権者側における仮処分に依り保全せられる権利が金銭的補償を得ることによりその終局の目的を達し得る事情及び債務者側における債務者が仮処分により普通受ける損害よりも多大の損害を被むるべき事情をいうのであるが右の両事情は必ずしも併存しなければならないものではなく、いずれかの事情があれば足るものであつて即ち右両事情はそれぞれ独立して別箇に特別事情となるものであると解するを正当とする、然らば原判決が仮処分により債務者が異常の損害を被むるべき事情について何等顧慮するところなく単に仮処分により保全せられる権利が金銭的補償を得ることにより終局の目的を達し得る事情のみにより特別事情ありと判断したことは正当である、また本件仮処分により保全される上告人の権利は本件土地(池沼)所有権であるから被上告人が右土地に対し埋立工事を続けてこれを畑地としてもこれにより上告人の被むる損害は金銭補償により終局の目的を達することができるものであり、またかりに本件土地が埋立工事によつて畑地となり自作農創設特別措置法の適用を受け強制買収されることとなつても上告人の受ける損害は結局金銭補償により終局の目的を達し得るものであることは原判決の説明するとおりであるから原判決には所論の如き違法なく論旨はいずれも理由がない。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条により主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)